もはや、知らない人はいないであろう「AI(人工知能)」という言葉。
雇用不足の解消など、人間が抱える問題点を解決してくれるものとして非常に注目されていますが、
その一方で人間の仕事を奪うのでは、など懸念の声も多くあります。
今回は、そんな今注目される人工知能が、人間にしか持ち得ない「芸術性」を実現するのかについて書いていきます。
人工知能が目指す先は、芸術性の獲得?
日々、人工知能はものすごいスピードで進化を遂げています。
ビジネスの場面はもちろん、私たちの生活でも欠かせないものとなるのは時間の問題かもしれません。
ただし、人工知能はあくまでも機械であり、人間が持ち合わせているような創造性や芸術性は持っていません。
機械なので、正確性は人間よりも上かもしれませんが、感情など心を持っている人間にある創造性などの実現は難しいというのが一般的な見解です。
しかし、凄まじい人工知能の進化によって、芸術面でも数々の先進的な試みが行われているのです。
芸術性の獲得への第一歩
それが、2016年の映画「Morgan」の予告編を作成する研究に取り組んだという内容です。
このプロジェクトでは、同社のコグニティブ技術であるWatsonに既存のホラー映画の予告編を分析させて、人間が恐怖を感じたり、興奮したりしそうな状況を本編の中からピックアップさせたのです。
しかも、普通では1週間かかる編集作業をわずか1日で終えたとのことで、実際の映像を観てみると、人工知能が作ったとは思えないような出来になっています。
動画リンク→https://youtu.be/gJEzuYynaiw
人間を超えるのはそう簡単ではない
この映像を見る限り、人工知能は芸術性さえも乗っ取ってしまうのでは、と思うかもしれませんが、IBMリサーチのジョン・スミスさんは、そう簡単ではないと述べています。
ジョン・スミスさんは以下のように述べており、現在では、まだ人工知能の芸術は実現されていないと言えるでしょう。
’’人工知能に、偶然目新しいものをつくらせるのは難しくない。
しかし、意外性があり、かつ有益な何かを新しくつくらせるのは、本当に難しい。’’
例えば、人工知能に「美とは何か」を教えるのは、そう難しくありません。
というのも、人工知能に大量の「美しいもの」と「美しくないもの」のデータを読み込ませれば、そのうち美の概念を獲得するでしょう。
ただ、美しいものを「理解する」のと「作る」のでは、大きく違います。
「美」には、基準があるようで、ありません。
プロの芸術家や科学者の創造性はものすごく、その考えは素人には到底わからないような未知の世界が数多くあります。
ある基準に沿って「美」を決めるというよりは、人間が持っている「感性」などで美を感じたり、作り出すと言った方が正しいのかもしれません。
芸術は、人間しか持ち合わせていない特別な能力というのが、一般的な認識なのです。
ただ、これはあくまでも「現在」の見解で、日々凄まじいスピードで成長し続ける人工知能が、芸術を変え始めるのはそこまで遠い未来ではないかもしれません。
ディープラーニングによって芸術が変わる
2015年に「ディープラーニングでおそ松さんの六つ子は見分けられるのか」というネット記事が注目を浴びました。
アニメ番組の「おそ松さん」の2話〜5話から5,644枚のおそ松さんの顔を自動的に切り抜いてラベリングして学習させ、人工知能によって6つ子を見分けるという内容です。
実際に行われた手順が以下の通り。
学習データの作成
まず、ディープラーニングでおそ松さんの顔を学習させるため、ラベリングされた顔画像を集めます。
画像収集
通常、アニメの顔判別の際には、アニメのスクリーンショットから顔部分のみを抽出して、手動でラベリングを行います。
今回、ディープラーニングでは、顔だけラベリングするのは効率性が良くないとして、アニメにおける文脈や服装、位置などの情報と一緒にラベリングするようにします。
具体的には、
1、アニメを流して全体のスクリーンショットを撮る
2、指定ディレクトリに保存させ、自動で顔を切り抜いてくれるようにする
3、切り抜かれた顔写真をデスクトップでフォルダ分けする
高度な技術を使ってそれぞれの顔を認識していくと、全員検出されるようになったのです。
このように、まずは準備として大量の画像を集めて、それらを使ってディープラーニングで学習させ判別していきます。
その結果、毎回100パーセント認識できるわけではありませんが、想像していたよりもしっかりと見分けられているようです。
また、同じ2015年には、Googleが人工知能を用いた画像処理アルゴリズムとして、「Deep Dream」を公開しました。
Deep Dreamでは、学習済みのCNNの内部が、どのようになっているかを知るために開発されたもの。
指定した画像を入力し、写っている物体を例えば「犬」で認識させたとして、その「犬」という判定結果を強調するように元の画像を変化させる、これを繰り返すことで画像全体を変化させます。
同じ年に、Googleはディープラーニングを用いた画像生成手法として、「DRAW」を発表しています。
その他にも、画像や絵をディープラーニングで生成させる技術を応用しようという研究がドイツでも始まっています。
2015年、ドイツのチュービンゲン大学の研究者らによって、「A Neural Algorithm of Artistic Style」というアルゴリズムが開発され、このアルゴリズムでは、葛飾北斎やゴッホらの画風を特徴量として学習し、画像に特徴量を重ねて出力することで、北斎風やゴッホ風に変換できるというものです。
このように、世界中で芸術への応用としていろいろな取り組みが行われており、今後、人工知能が芸術性を獲得する日も近いかもしれません。
芸術家の間で波紋が広がる
芸術の世界にも足を踏み入れ出した人工知能ですが、人工知能の「芸術性」が、果たして人間を超えることはあるのでしょうか。
多くの芸術家の間で、この人工知能の進化について期待と心配の声があり、人間の創造性や芸術性を、どこまで実現できるのか、今後の人工知能の動きに注目が集まります。